資産効果の話し(2013年01月06日)
読者から総資産経営の意味を問われたので…簡単に解説します。経済は拡大モデルが基本になっています。わが国は1985年のプラザ合意以降、政策ミスを連発したために構造調整に戸惑いました。そうして1989年の東西冷戦の崩壊から、鄧小平の開放改革政策に代表されるようにBRICsの影響で空洞化の調整に苦しんでいます。日本モデルを模倣するBRICsの価格優位性に技術革新が追い付かずに勝てなかったのですね。ガラパゴス化と言われて久しい時間が経過しています。
昨年からの株式の値上がりは、その需給バランスを大きく変えるための期待感で株式が上がっています。その需給バランスの基本がインフレ率の調整なのです。何故、わが国の構造改革が長引いているかと言えば、日本独特の風習や文化にあります。江戸時代の鎖国制度の環境に良く似ていますね。TPPの問題で大きく揉めるのも知識不足と間違った報道です。よく考えれば分かりますが…何故か、日本人はあまり考えません。これも画一化教育の弊害でしょう。故に一刻も早く教育問題に取り組まねばなりません。記憶力より独創的なアイディアを生む付加価値教育を優先させねばなりません。
さて今日の主題は総資産経営で大手金融業の総資産が大きいのは当たり前で、カタルの指摘がおかしいかどうかの話です。日本の銀行は、企業などもそうですが…基本的に総資産経営です。カタルの指摘する総資産経営とは規模の拡大を求めることを示します。日立は代表的な企業ですが近年は方向転換を始めています。日本は過去において基本的に儲けが少なくても売り上げを増やすことに重点を置いてきました。理由はインフレ率が高かった影響もあります。しかし世界の基準は違います。ROEと言う投下資本に対する利益率で企業の優劣を競い合っているのです。産業障壁を引き下げて利益率の低い産業の門戸を開放しなくてはなりません。TPPなどで問題になっている一部の弱小産業の保護は別の問題ですね。どの国でも農業への補助金は存在します。CAS冷凍技術などの開発もあり様々なアイディアが効率的社会で生まれるようになっていますから、日本の農水産業も捨てたものではないと思いますが…なかなか活用する人が居ませんね。まぁ、その話は兎も角…。
何故、金融緩和によって金融業の株が上がるかと言う基本的な概念が皆さんには不足している様なので…基本的に総資産規模の大きな金融業は利ザヤで稼いでいます。今の住宅金利や貸出金利は預金金利との鞘で計算されて決まっています。この計算の前提がデフレ型になっているのですね。この前提で利益が生まれるように金利などが設定されています。下のグラフを少し説明しますが、オレンジの線が基本的な調達金利、または資産の調達価格だと考えてください。青色は実際に日本が行ってきた政策の動きを示しています。aの線はプラザ合意から東西冷戦の崩壊までで、bは資産価格を引き下げた1990年代初めの現象です。年収の5倍で家を買うために住宅価格を無理やり引き下げた動きです。そうして構造改革を渋った90年代の自民党政権の失政がcで、現在はgの位置にあります。まぁ、株価のイメージ図だと考えていいのですね。基本的に株価はインフレ率に連動して動きます。本来の経済は緑色の1のように右肩上がりの環境下で、正常な経済活動が出来るようになっています。この傾きを大きくすればaのような失敗をするわけですね。基本的な傾きはGDPの成長率の1%~2%程度上が望ましいのです。しかし我が国は2の桃色のような状態を長く続けてきました。その為に本来、適正な基準から大きく乖離しています。オレンジと青のギャップはかなり開いていますね。つまり普通の政策を実行するだけでこのギャップが埋まります。これが基本認識です。

銀行は多くの人からお金を集め運用しています。みずほのケースでは総資産165兆円の内およそ預金は79兆円、譲渡性預金は12兆円など…でお金を集めて運用しています。これまではデフレ化だったので投資した株式が値下がりしたり、企業に貸し出したお金が不良債権になったりする確率が高かったのですね。その為に毎年のように償却損を計上しています。今の利益モデルはこのようなデフレ化でも利益が出るように構造調整されており金利などが決められています。ところが経済全体のインフレ率が上がると、投資した株式や貸出先の経営が上手く行き償却損が減りますから運用益が想定より増えます。預金を全額株式投資していたと考えると、この考え方はより良く理解できるでしょう。実際は違いますよ。自己資本規制比率などがありそんな事は出来ませんし、日本国債を下がると思っても勝手に売ることもできません。色んな制約があります。それでも期待インフレ率1%を2%にすると政府が公約するという事は大きな事で、インフレにするのは実は簡単なことなんです。本気になれば…の話ですが。
どうも消費税の引き上げも決まり、自民党が大勝したので日銀は正論を主張できない環境下にありますね。この部分を市場は大きく評価しているのでしょう。さて大手銀行の話に戻しますが、運用が大手銀行などの金融機関の仕事なのですね。僕がいくら努力しても単純平均株価が下げ続ける環境下では、買いで儲けるのは至難の業、僕にはその能力がありませんでした。しかし多少、インフレになるなら取り分のパイが大きく増えますから、そのおこぼれを授かる確率は大きく上がります。同じことが金融界全体で起こります。1%の利潤の増大は165兆円なら1兆65百億円ですね。預金金利も上がりますが、これは計算されており直ぐに反映されません。しかし貸出金利などは市場金利に連動して直ぐに反映されます。勿論、国債価格の値下がりなどもありますから、インフレが全部利益に繋がる訳ではありませんが、大手銀行はデュレーション(期間投資利回り)が考慮され運用されていますから、長期国債の割合を減らし短期債に傾斜していますから、大きな損失にならないでしょう。勿論、債券先物を利用したヘッジもあるでしょう。因みにみずほの国債投資は34兆円ほどです。平均して何年なのか詳しく調べてないから分かりません。大手銀行はリスクの大きな国債を減らし、リスクが減る貸し出しを増やしますから利潤が増大する環境下になりますね。
しかし製造業は地方の工場や工作機械、在庫などが主だった投資先ですから総資産効果は薄いですね。仮に工事期間が2年程度のデベロッパーなら、地価が値上がりし金利分などの経費が浮くかもしれません。故に長谷工などのマンション業者の利益も増えてきますから株価は騰がる筈ですね。貸出金利と預金金利の引上げの時間差が利潤に繋がり予期せぬ利益を生んできますね。川崎汽船は保有している株価が上がったために一旦は償却した損失を戻し利益で計上するとか…。ようするにインフレ率が上がるという事は、このような予期せぬ利益を至る所で生み、活動的な社会構成になるのです。だから本来は「緑の線」を経済環境に戻さねばなりません。生命保険会社の収益構造を考えてもインフレ型社会の良さが分かります。年金生活者や公務員から、若者に所得移転が行われる正しい社会構造への転換が始まるのでしょう。やがてうつ病患者は少なくなり、夢を抱ける社会構造に変わり、皆が行動的になりますから、昨日示した貨幣乗数効果も引き上がります。問題は日銀や政府が80年代の貨幣乗数効果が生まれるまで緩和するかどうかの姿勢ですね。