凄腕ストラテジスト是山金蔵の

是金レポート

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2006年06月23日

日本がエマージングマーケット並みに暴落した理由。

まづ今回の下げの売り方を分解してみることから始めよう。
売り方は
①ヘッジファンドの売り(数千億円?)
②銀行の先物ヘッジ売り(5200億円 ファイル参照)

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③個人の追証のなげ(5週間で 1兆円)
④ノックインによるオーバーヘッジのアンワインド(数兆円?)
⑤逆ざやによる裁定解消売り(1兆5000億円)
となる。

これを読んだ投資家の人は「?」って思われるものが2つあると思う。まずは銀行による先物売り5200億円だ。これはおそらく私の推測だが、ポートのアロケーションで購入していた数兆円の株式私募投信のヘッジであると思われる。これが実は毎週毎週1000~2000億円単位で出ていたのだ。
(東証、大証 主体別売買動向参照。)
これはすごく相場にネガティブインパクトを与えた。これも書き出すと長くなるので、詳細はいろいろあるのだが、まあここまでの記述でご勘弁願いたい。

つぎにノックインによるオーバーヘッジのアンワインド数兆円とある。数兆円ですよ数兆円。。。。。。こりゃすごい。これ。。。どこにも書かれていないし、誰も気づいていないんだよね~不思議なんだ。。。。。。。
でもこれが一番下げを加速させたまぎれもない原因なんだよね。今回の下げの要因はいろいろあるが、下げを大きくしたのは銀行による先物売りとノックイン債券のアンワインド。

で。。。今回はこの下げを加速させて日本市場をエマージングなみに暴落させたノックインに関して書くことにする。実は市場は下げる前からノックイン債券と言う市場のリスク要因(爆弾)を、内包していた。
いくら4年間ノックインがないからと言うて、なにごともやりすぎはアカン、やりすぎは。”1兆5000億円+私募 K I残高=数兆円”はいくらなんでもやりすぎでしょう、いくらなんでもね。

信用残、裁定残、仕組み債残。。。。。。。。そりゃあ~すれらがすべて一回適正水準まできれいさっぱりに清算されるのは自然の流れかもしれへんな。。。。。

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メディアにはよく「ヘッジファンドの先物売りが下げを加速。。。。」かかれており、それはうそじゃないけど
それほどヘッジファンドの売りって多かったのかなあ~ってなんとなく思っていた。そりゃあ~銀行のヘッジ売り5000億円っても、そうなんだが、それ以上に先物売りのインパクトって大きかったように感じる。
その結果が逆ザヤによる解消売り。。。。。裁定残だいぶんへったなあ~で。。。最大の元凶として浮上したのが日経ノックイン債券なのである。それでちょっと分析。。。。。。。

今回のノックインが下げを加速したのは
①リスク限定商品として認識されていたが、元本既存リスクが表面化した。
②ノックインしたのは4年ぶり
③純資産残高は4月末で1兆5000億円
ということが背景にあった。残高が膨らみすぎたのである。

日経連動ノックインが全盛を誇ったのは2000年夏以降~2001年後半にかけてだ。ネットバブル崩壊後、下げ相場であったにもかかわらず、ノックインは低金利の中、高いクーポンが取れる商品として個人投資家に浸透、人気化していった。ボラティリティをクーポンに変えるという極めて単純な商品。

スウェーデン輸出信用銀行、ノルウェ-輸出信用銀行、ノルウェー輸出金融公社、NIBキャピタル、ドイツ農林金融公庫、ラインラント プファルツ州立銀行、スウェーデン地方金融公庫。。。。などがこぞって発行体となって、ノックイン、EBを発行しまくった。

しかし。。。。ノックインという商品は満期、ストライク、バリアの状況によってはオーバーヘッジによるヘッジのアンワインドにより、市場を崩壊させる危険性を内包するものであった。2000年~2002年にかけて、市場はノックインによる下げ加速は隠れた市場崩壊要因だ。そしてそれがど安値をつける結果になった。

そして現在、実は当時を上回るノックインの発行残高を誇る第二の仕組み債ブーム。当時でもKIは確かピークでも1兆円前後の発行残高であったと記憶している。それがいまや1兆5000億円とは。。。。。
そうかあ~これが下げを予想以上に加速させていた元凶やったんや!!と。。。。。。。。分析していた改めて感じた。

記事にもあるように4年間ノックインしたことがないと言う成功体験が、ノックインを安全な商品だと言う勘違いを投資家にうんのかもしれない。また対面販売の証券会社の収益源の半分近くが仕組み債に依存していたと言う事実も見逃せない話だ。そしてそれ以上に株式では考えられない手数料収入の大きさが営業マンのモチベーションを高める。

いずれにせよ、日経連動のノックイン債券は市場に蔓延していたのは事実。。。。記事もあるが投信会社は通常裏のオペレーションは証券会社にまるなげである。そういえば先日の日経金融新聞スクランブルにも「仕組み債の発行体のポジションは開示されないので我々でもよくわからない。」との運用会社のコメントが書かれていた。

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ノックイン。。。。きついんだよねえ~なにがきついかと言えばやっぱ、オーバーヘッジ後のポジションアンワインド。。。。

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ではオーバーヘッジのアンワインドとはどう言うことであろう。オーバーヘッジとなる仕組みはこうだ。
まずノックイン債券を顧客が買うと言う行為は、証券自己側から見れば、プットオプションを買うという行為になる。(顧客はプット売であり、そのプレミアムがクーポンとなる。)買い建てたプットオプションをヘッジするには、自己は先物を買う必要がある。それによりデルタをスクエアにするのである。

しかしここで問題が生まれる。ノックインというのはその名のおり、バリアに日経225なりの現指数がタッチしなければ、発生しないのである。それが”タッチしなければ損はでないから安全”と言う勘違いを生むことになる。つまり、ノックインプットのヘッジと言うのは、プットの発生確率に応じてデルタを計算し、そのデルタ分だけヘッジすることになる。

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たとえば、日経225が16000円、満期まで3ヶ月、ストライク15000円、バリア13000円の場合
デルタは0.17となる。プレーンバニラなプットならば0.26程度ヘッジするところを、発生確率を考慮し
0.17だけヘッジすればいいとのである。少ないヘッジで済むということを意味する。

タッチしなければ発生しないプットであるがゆえに、過少ヘッジに見えるヘッジで事足りるのである。しかしこれがノックインにおけるオペレーションの罠なのである。では2000年バブル崩壊時と今回の下げにおける、ノックインの本当の恐怖に関して言及する。添付のPDFファイル(表)を見ていただきたい。
これは先ほどのノックインの仕組みを図でわかりやすく説明したのもである。

説明をわかりやすくするために本日の日付は2006年9月10日にしてある。

画面は4つ。
前提は、日経225のノックイン債券(プット型)ストライク価格=16000円バリア価格(ノックイン)=13000円満期=2006年9月18日でのシュミレーションである。

まず最初の画面デルタに注目していただきたい。(以降の計算は簡易なもので、正確ではない。念の
ため。)デルタは-0.00049だ。仮に発行総額100億円のKIならば、この時点における自己の先物ヘッジはわずか490万円分である。日経平均が15000円なので先物1枚にも満たない。そりゃそうだ。わずか8日で(15000-13000円=2000円)も下落する確率はきわめて低いから。結果デルタが-0.00049しかなくなる。

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で。。次の画面日経がそこから14000円まで下落した場合だ、デルタに注目。。。デルタは0.44まで上昇する。44億円分で先物の枚数で293枚のヘッジ。8日で1000円。。。ありそうでなさそうで。。。。。。。

で。。次の画面
そこから日経225はさらに下落して、13500円になったとした場合だ。デルタは2.81.金額にして281億円、先物枚数で2081枚になる。これがいわゆるオーバヘッジというものである。100億円の発行に対して281億円ものヘッジをかける必要が生まれる。こりゃあ~不思議だ。なぜ2.8倍ものヘッジをせなアカンのだろうか?って不思議に思う方もいるかも。でも考えたら簡単な話。
相場が高い時には過少ヘッジであったため、下がったときにプットと先物のバランスをとるには
オーバーヘッジとなるのは当然のこと。。。。。。。簡単な話だなこれが。。。。

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そしてさらに下げて、バリアの13000円間近の日経13100円。デルタはなんと5.26にもなる。
金額にして526億円、ヘッジ先物枚数4015枚。

そしてノックイン。。。。。。ノックインした場合はどうなるか?
答えは簡単でプットが出現するため、デルタは限りなく”1”になる。だってプットが発生するわけだから、そのデルタは”1”だ。て。。。。。こたあ~てえへんだ!デルタが1ってことは、ヘッジ先物枚数は100億円の769枚。つまりノックインとともに4015-769=3246枚もの先物売りが成り行きで出現するのととなるのだ。

もうおわかりだと思う。そう。。。満期が近づいたストライクの高いノックインが、ヒットしたときには、マーケットに考えられないような先物売りを誘発するのである。なにせこのシミュレーションの場合、成り行きで3200枚もの先物売りが出る計算となるのだから。。。。

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ただしこのシミュレーションは極端は場合である。満期がまだ先の時は、これほど急激にデルタは変化しない。加えて、ノックインぎりぎりまでオーバーヘッジをし続けることも考えにくい。通常先物の板見て、オーバーヘッジのアンワインドの枚数考えて、適度なところで、自らのアンワインドでノックインさせに行く場合がほとんどであろうと思う。

ここがディーラーの腕の見せ所である。
で。。。。。ここで質問。”買い下がってノックイン後成り行きで売ったら、上で買って下で売ることになるか
ら損になるのでは? なぜわざわざ損になるようなことをするのであろうか?”

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答えは、証券自己のオペレーションを考えればわかる。
まず思いつくのが”ヘッジなしでKしたら大儲けできるのだからしなければいいじゃん。”と。。つまりヘッジしないで素直にKIプットのロングを持っている場合。そりゃあ~ノックインしたら、まるまるポジションは大儲けになる。そりゃあ~すごい。

しかしそれって単にプット買って勝負しているにすぎない。誰も相場が下がるか上がるかなどわからないのだから。。。。。。。それをやりだしたら、わざわざ、こんな商品で回りくどいことしなくとも、相場観でプット買いなり先物売りで勝負したらええのだ。KIを発行する意味は、それをヘッジして収益を上げることができるからだ。だからあえて損でもヘッジをかける必要がでる。

ではどうやって収益をあげるのか?
先ほどのシミュレーションに戻って考える。相場が下がれば下がるほどオーバーヘッジの割合が高くなることは先ほど言及した。でもそれを逆に考えれば、相場が反転上昇した場合は、ヘッジデルタが小さくなることだ。ヘッジデルタが小さくなるってこたあ~ヘッジで買っている先物を売ること。つまり下で買って上で売る。。。。。。。うぉ~こりゃすごい、儲かるではないか。。。。。。

そう。。つまりKIをヘッジする過程で、”下で買って上で売る”というオペレーションがヘッジと言う行為の中で生まれるのである。ヘッジ過程で相場がもみ合えばもみ合うほど、”ちゃりん、ちゃりん”と収益がブックの中に落ちるって仕組みたあ~お天道様でも気がつくめええ~と。

そして何よりオーバーヘッジによる損失はプットの利益で補えるってことが一番大事な話。だってそれがヘッジって意味でしょ?

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それはそうと、ノックインが次々にヒットしてオーバーヘッジのアンワインドによりまた次のノックインを
ヒット。。。。。。。これを繰り返し下げが加速する。。。。。。

「なんじゃあ~この先物売りは!!!」なんてことは、KIの仕業が意外に多い。でもこういったものに対する市場関係者のコメントはたいていが「ロスカットレベルにヒットしたことによる先物売り。おそらくヘッジファンドでしょう。。。。」とええかげん。。。

(まあ私も時たまその手のコメントをすることがあるから、あまり人のことは言えないが。。。。)

一昔前、ネットバブルを崩壊させたデス スパイラル ローン(死の螺旋階段)ってのがあった。この欄でもそのことを詳しく解説したことがあるが。。。。ぎりぎり耐えていたネット企業に最後の引導をわたした金融商品。

KIはそれに通じるものがある。ヒットすることにより相場を加速させる、デス スパイラルな側面。。。。。
まあ一種の相場ドミノ倒しってところだな。でもそれを購入している個人投資家は自分の買った債券が日経指数の暴落を誘発しているとは夢にも思わず。。。。。ってことだな。

でもこう考えたら需給だいぶん軽くなった。信用残は新聞にもでていたが5週連続減少で1兆円近く減ったし、裁定残は銀行の先物売、KIによるヘッジのアンワインド、ヘッジファンドによる売りで1/3がなくなった。そしてKIがヒットして市場に滞留していた大きなリスク要因が消滅。

そろそろ売るものほんまになくなってきた感がある。底入れやね。。。ほんま。しかし急騰を期待したらアカン。本格上昇は下期からや。

こっからしきり直しやで!!がんばらなアカン。

2006年06月01日

急落の今、すべきこと。

久々に書くことにする。

相場は急落。。。。。。いったいどこまで下がるのであろうか?
そして今後どうのような展開が予想されるのか?
と。。。言うことに関して、今回は考えてみたい。

市場参加者は先週の戻りのときとは一転し弱気に傾く。個人投資家中心に戻りの過程では「もう底は打った、強気でポジションを組んでいこう。」と感じたはずであったが、一転して本日のような下げに見舞われると、「もう~アカン、どないかしてほしい。」と悲鳴をあげる。

何度も書いているが今回の下げはそう甘いもんじゃないと思う。それは今回の下げが昨年のGMショックや本年1月のライブドアショックとは異質のものだからだ。当時の下げは、あくまで個別企業の話が市場全体に波及しただけであった。故にショックも浅く下落幅もそれほどではなく、調整に要する時間も短期であったのだ。

しかし今回は違う。
世界的に流動性を供給していたオイルマネー中心に、お金の流れがフリーズしてしまっているからである。景気、企業業績、構造的な変化。。。。といったものを背景に、世界のお金が日本市場へ流入。。。。そしてそれが日本株だけでなく世界的な株高を演出してきた。

しかし資源価格のボラティリティが上昇し、価格が不安定になるにしたがい、世界的な資金の流れが滞り始めたのである。

そしてそれをきっかけにして、株価の上昇は止まり、ファンド等の売り仕掛けも伴って、相場全体は急落することとなった。ゆえに、ここ最近見られた市場の調整と、今回の下げがまったく異質なものとなった
のである。では今回の下げは、過去に見られたように本格的な下げ局面となるのであろうか?と言う疑問が生まれる。そう。。。。過去にも世界的に流動性が欠如して暴落につながった局面があった。それと今回の下げになんらかの類似点がないかどうかを考えたい。

結論から言うと、それは”ない”と言える。
それは過去の世界的な流動性欠如の局面と今回では絶対的に違うポイントがあるからである。

過去の世界的な流動性欠如の局面。。。。その時に起こっていたことは、”マネーをすべて吸収するブラックホールの出現”であった。

過去に見られたブラックホール。。。。。。それらの名前を羅列すると
 ロシア危機~~LTCMショック
 中南米危機
 アジアショック
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

経済に生まれたブラックホールは世界のお金を吸収しつづけ、世界的な流動性の欠如を生み出した。
その結果、株は暴落したのである。では今、世界の資金を吸収しつづけるブラックホールは存在するのであろうか?????

答えは”否”だ。
過去に資金ショートしていた、中南米、アジア、ロシア、カナダ、と言った国々は今、資源価格の上昇により、ショートどころか、キャッシュリッチ国となった。

お金がない国は。。。。。アメリカぐらい。。。。。。でもアメリカは先進諸国の中で金利が高い状態を維持し、自国以外のお金でファイナンスしうまく経済をまわしているのである。現在世界各国はとてもうまくお金が流れている状況であるのだ。しかし中南米がアメリカをファイナンスしていると言う事実を誰も知らない。でも事実そうであって、今世界にはブラックホールは存在しない。

では。。。。資金を吸収しつづけるブラックホールが存在しないのに、何故国際的な資金フローに変調がきたしたのだろうか?そしてそのお金はどこに消えたのか???????

私の答えは、”それらのお金はどこにも消えていない。”という事である。資金フローは株式、コモディティのあまりのボラティリティの高さに瞬間的にフリーズしているにすぎないと思う。だってお金を吸収する主体がいないんだから、お金自体はあるのである。問題はいつ、どういった形で世界的な資金フローが回復するかだけだ。

それには。。。。。。個人的な見解を申し上げれば”ボラティリティの低下”ではないかと思う。ボラティリティが急激に上昇し変動している間は、臆病なお金は地面にもぐってしまうから。しかしそれが落ち着けば、バリュエーションを評価して資金が市場に戻ってくるのである。それにはやはり時間が必要。。。。。。。。

ただ時間が経てば国際的なマネーは再び市場へ流れ込んでくる。今回の下げだって基本どおりバリュエーションを評価して、中長期投資している投資家にとっては若干利益が減った程度でしかないはず。
JFEなど鉄再編の思惑があるとは言え、高値更新である。仮にそういったことがなくともPER10倍銘柄がいったいどこまで下がると言うのだ。

今投資家がすべきことは、成長性とバリュエーションを評価して、買うべき銘柄を選別すること。大半の投資家が傷んで動けない状況こそ、最大の投資チャンスとして、底入れのタイミングをうかがうべきである。
バリュー投資中心の投資家にとって、この下げはチャンス以外のなにものでもないと言えよう。